Project Story 02 創意工夫が生み出す“伝わる”スポーツ映像。 Project Story 02 創意工夫が生み出す“伝わる”スポーツ映像。

Project Story 02

創意工夫が生み出す
“伝わる”スポーツ映像。

プロ野球撮影

カメラマン:テレビ技術局撮影部

平野 裕介

※2019年当時

自分の意志を発信するのもカメラマンの仕事。
ディレクターとの意思疎通があってこそ、いい映像が撮れる。

日夜さまざまなスポーツの現場を取材する撮影部。勝敗を分ける一瞬のプレー、選手の熱い思いや感動を切り取った映像は、「報道ステーション」のスポーツコーナーなど報道・スポーツ番組の素材となり、競技の魅力を多くの視聴者に伝えている。
撮影部が手掛ける数多くのスポーツの中で、もっとも早くから携わっている競技の一つが、プロ野球だ。文化工房がいち早くENG機材を導入していたこと、テレビ朝日がスポーツを撮影できる人材を育成したいと考えていたことから、当時若手カメラマンが多く在籍していた文化工房に声がかかり、スポーツ素材の撮影を担当するようになったのが1979年。以来40年間にわたり、プロ野球の試合撮影は、文化工房の撮影部の中心的業務であり、カメラマンが最初に撮影技術を学ぶ場でもある。
現在、プロ野球の撮影に携わるのは、社員22名とフリーランスなどの社外スタッフ。東京、神奈川、埼玉、千葉に本拠地がある5球団のホームゲームを担当し、撮影する試合は年間約400試合に上る。

プロ野球は、地上波での生中継は減少しているものの、2018年には観客動員数が史上最多を更新するなど、スポーツコンテンツとして根強い人気を持っている。野球日本代表「侍ジャパン」の試合中継は、テレビ朝日にとってもビッグプロジェクト。野球への興味を高めていくことは、日々のスポーツニュースの課題でもある。
「テレビ朝日のプロ野球のニュースは、ほかのスポーツやほかのテレビ局に比べて、特に作り込んでいます。勝ち負けだけではない面白さやドラマが、見ている人に届くニュースだと思うんです」
そう語るのは、撮影部所属7年目の平野裕介。サッカー、フィギュアスケートなど他競技の撮影も行うが、もっとも「撮っていて面白い」と感じられるのは、やはりプロ野球だという。

スポーツの現場では、撮影できる素材はどの局もほとんど同じ。にもかかわらず、テレビ朝日のプロ野球のニュースが他局と違うのは、素材を撮影するカメラマンの“色”が映像に出ているからだ、と平野は考えている。
その試合で何をニュースのテーマにするか、カメラマンとディレクターは必ず試合前に打ち合わせを行う。ある一人の選手をテーマにすると決まれば、その選手らしさを表現できるのはどんな映像か、どんな場面を撮影すればストーリーに合う映像になるのか、自分の意思やこだわりを持ち、ディレクターと意見を交わす。
「文化工房のカメラマンは、ディレクターに言われるがまま撮る、ということはないですね。こうした方がいい、と思うことがあったらどんどん言う。自分の意思を発信するのもカメラマンの仕事」と平野。「自分の意思を持つこと、それを伝えること、ディレクターとコミュニケーションを取って意思疎通を図ること。それができるから、いい映像が撮れるんです」

自分の意志を発信するのもカメラマンの仕事。ディレクターとの意思疎通があってこそ、いい映像が撮れる。

試合前の打合せにはディレクター、カメラマン、VEのスタッフ全員が参加し、その日の注目選手やトピックスなどを確認する。

時には撮影のセオリーを崩し、自らの感覚に従って撮る。
その直感が、試合を決定づける瞬間を映し出す。

スポーツ映像の撮影には、基本的なセオリーがある。しかし時には、平野もほかのカメラマンも、セオリーを崩して撮影する時があるという。
「例えば、打席に立つ選手を撮っていて、何となく“打ちそうだな”と感じる瞬間があるんです。直感としか言いようがないのですが…。そんな時は、自分の感覚に従って、かっこよく魅せたり、ストーリー性を感じさせたりする撮り方をすることがあります。その直感が当たって、試合を決定づける瞬間を思い描いた通りに撮影できた時には、ものすごい達成感がありますね」

平野らカメラマンの創意工夫は、映像の個性となり、ディレクターや映像編集者はその個性を生かしながら視聴者の興味を引くニュースへ仕上げていく。撮影、制作、編集のスタッフが「面白いものを作りたい」という思いを共有し、連係プレーでニュースを作り上げているのだ。
「編集を終えて完成したニュースを見ると、僕が撮影した映像が、僕の想像以上に魅力的な使われ方をしていることもあるんです。他社のカメラマンに『文化工房のカメラマンがうらやましい』と言われたことがあるんですが、そう言ってもらえるのは、僕たちがこだわって撮影した映像を生かしてくれる、制作と編集がいるからでもあると思います」

平野をはじめとする文化工房のカメラマンが撮影した映像の価値は、クライアントであるテレビ朝日はもちろん、視聴者からの評価も高い。平野自身も、「応援しているチームが勝った日は、報道ステーションのスポーツコーナーを見るのが楽しみ」というプロ野球ファンの声を耳にしたことがあるという。
「文化工房のカメラマンは、技術面で“腕がいい”のは間違いない。でも、それだけじゃないんです。一人一人がアイデアやこだわりを持って撮影できるし、そのこだわりを最大限生かすために、ディレクターとのコミュニケーションも大切にしている。そこが一番の強みだと思います」

こだわりを持ち、創意工夫を重ねて撮影した映像があるからこそ、視聴者に伝わるニュースを作り上げることができる。より面白く、より多くの人の胸に届く映像を――。撮影部のカメラマンの奮闘は続く。

時には撮影のセオリーを崩し、自らの感覚に従って撮る。その直感が、試合を決定づける瞬間を映し出す。

87倍までズームできる高倍率レンズ搭載のカメラを熟練の技で操作し、ここぞという場面を確実におさえる。